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大阪家庭裁判所 昭和41年(少)4990号 決定 1966年6月27日

少年 N・H(昭二二・七・二七生)

主文

少年を特別少年院に送致する。

押収した刺身包丁一丁、さしみ包丁の刄先一個(昭和四一年押第七六九号符号一及び三)を没取する。

理由

少年は私立○○商業大学一年生で自宅から通学している者であるが、昭和四一年五月○○日午後六時過頃、自宅である池田市○○△丁目○○番○○号N・N子方で、実兄N・M(二二歳)と兄弟喧嘩の上押し倒され顔面を殴打されたことに立腹し、腕力ではかなわないからと外出して刄物でおどかしてやろうと全長三〇・七糎位刄渡一七・二糎位の刺身包丁を購入し、午後八時頃再度自宅に帰り兄の部屋へ行き、該包丁を左手に持ち刄を下に切先を同兄の方に向け「かたをつけよう」と申し向けたが、却て「お前気狂か」「お前らもう兄弟と思わん」と罵倒されたのに激昂し、咄嗟にやつてしまおうと考え、いきなり左手の包丁をもつて同兄N・Mの右脇腹を刺して殺害したものである。

上記少年の行為は、刑法第一九九条に該当する。

少年の上記非行の性質結果に重きを措いて考えるときは少年を刑事処分に付するのを相当とする。しかし、もう一度他の点から考えてみよう。少年の父母は別居生活をし、母は仕事熱心のため家庭を余り顧みず放任勝で、父の代りとなつていた兄N・Mは少年との性格の差が大きく少年の感情を充分理解せず、雰囲気の暗かつた家庭の状況が問題であり、本件非行の誘因もここにあると考えられる。少年は、知能は普通域であり、粘着的傾向があつて生真面目で、規則正しい生活場面では平静で温和であるが、対人関係でも受動的で、外部からの異つた心的緊張や葛藤が加わると、刺戟に対する耐性に乏しく、自我を制御する能力未熟のため適切な行動をとる余裕を失い、単純な感情の統制を欠いた行動に至りやすい性格であるが、大きな偏倚はなく矯正教育の効果は期待が持たれ、環境的条件さえ整備されれば、予後は良好と認められる。本件非行によつて保護者は覚醒し、父母は同居をはじめるようになり、母は仕事を止めて家事に専従するようにして居ることは明るい条件であり、少年の出身小、中、高等学校教職員、近隣者等から寛大な処分を望む旨の嘆願書の提出されていることも顧みる価値がないとは云えない。又、少年の在学する○○商業大学では、少年の処分を留保し、本決定を待つてできるだけ少年の利益になる措置を採ろうとしているのである。以上の諸点を考慮するときは、少年を刑事処分に付して前科を負わすよりも保護処分を以て臨む方が少年の健全な育成を本旨とする少年法の精神に副うものと思料するので、同法第二四条第一項第三号を適用して少年を特別少年院に送致することとし、押收物の没取につき同法第二四条の二を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 谷村経頼)

参考1 少年調査票<省略>

参考2 鑑別結果通知書<省略>

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